レスター到着1ヶ月、思いのカタチ
レスターに来て1ヶ月と少し、イギリスに来てからはもう少しの時間が経ち、こちらの生活にも慣れて来ました。15年ぶりに暮らすイギリス。あの頃から変わらない懐かしさに出会うこともある一方、まだまだ新しい発見もあります。特に、当時は学生だったけど、社会人になり、いろんな経験をしたからこそ(?)、前は気づかなかった、気にならなかったことに目がいったりするような気がしています。
特に、社会人になってNGOというちょっと変わった世界に身を置きながら、やっぱり「遠い世界の誰かのためになったらいいなぁ」と思いながら仕事をし、ここ最近は所属先を支援してくれる方とのやりとりを中心に仕事をしていた(ファンドレイザーという職名になります)ので、やっぱりチャリティ先進国と言われるイギリスにいるとそんなところに目がいきますね。
☆今回はあくまで私個人の視点で書きます。もしかして間違っていることもあるかもしれません。あくまで今の私の目線なんだと思ってご容赦ください。
さて、話の時間軸を少し前に戻します。先月ロンドンであったイギリス国内のファンドレイジング大会。ここでまず最初の開会式の時点で驚かされたことがありました。
イギリス国内のチャリティ団体の収入の平均78%は個人からの寄付
軽く全体の半分は超えています。しかも助成金などはあまり頼りにしていないという事実。「すごいけど、どうして?どうやって?」そんな疑問がこの時私の中に生まれました。
そんな疑問を抱きながらイギリスで暮らし始めてみると、街はチャリティ(募金/寄付)であふれていました。
○暮らしのすぐそばにチャリティが
- 小さなお店でも2、3個の募金箱が置いてある
- お店で買い物をすると、「一緒に〇〇への寄付はいかがですか?」と聞かれる
- 街の中心で平日でも2、3のチャリティ団体の方が路上に出ていて、声をかけてくる
- (以前書きましたが)街にはチャリティのお店がいっぱい
- チャリティのお願いが郵便ポストに入ってくる ーある時ポストに入って来たチャリティは、最初「なんだろうこれ?」と思い封筒サイズでビニール上のものを開けてみると、こんな袋が中に入っています。よくよく外の袋の後ろを見ると、「この袋に服などを入れて玄関に出しておくと、木曜日に回収に来る」ということで、それらの物品を寄付することが、活動資金になる、という仕組みでした。寄付って、お金だけじゃないんだよね、と改めて気づかされました。投函されたのが月曜で、木曜日まで少し時間があり、「もし今回使わないときは、次回使ってね」と書いてあるのもいいですね。
- スーパーマーケットの入り口にフードポストが置かれている フードポスト、つまり食料品を入れるポストです。人の食べ物を入れるポストが多いですが、犬や猫のためのポストもあります。
- ある時スーパーに買い物に行った際、初老のご夫婦が買い物カートいっぱいに楽しそうにドッグフードを入れていました。「きっと家で愛犬が待っているんだろうなぁ」と思っていたら、そのドッグフードを全て犬のフードポストに入れてニコニコとスーパーを後にしたのです。これにはびっくり。お二人の事情はもちろん分かりませんが、ほっこり暖かい気持ちになりました。
○「カフェ」という「場」の存在
レスターに暮らしていて、気づいたのは、たくさんの「場」があること。そして、その「場」が街の中心など、人が行く場所でしっかり案内されていることでした。「場」の多くはテーマがあるものが多く、例えば「留学生」、「認知症」、「ホームレス」、「LGBT」など、該当する人たちが集まってお話しする場として、教会や公民館などが案内されていました。
そんな中に、ちょっと趣向の異なるカフェを見つけました。
”困っている人が誰でも来ていいカフェ”
このカフェ自体は、チャリティ団体が運営していて、住所は非公開。週2回、レスターのどこかで オープンしています。でも誰でも来ていいなんて、なんて素敵な!このチャリティ団体は実はもう1つカフェをやっています。こちらは公開版。最初のカフェにやって来た人で、もう1歩踏み出した人を含め、ボランティアさんが運営しています。もちろん収益はこのチャリティ団体に入ります。基本このボランティアさんたちのアイディアでメニューや、内装は日々変わるそうで、学生さんへのお得なセットなどもあり、雰囲気も温かいカフェでした。
ランチをいただきました。お茶もたっぷり。サンドイッチもトーストしてくれて美味しかったです。こういう「自分の居場所」みたいな場所があるって、本当に素敵だなぁと思いました。
○イギリス版ファンドレイジング協会、チャリティ団体は?
ここまで街の様子を書きました。では、実際にチャリティ団体や、その団体のスタッフやファンドレイザーはどんな感じでしょうか? まずイギリス版のファンドレイジング協会、Institute of Fundraising (IoF)ですが、私も会員になりました。(別記事参照)そのHPや会員ページに入ると、いつも目に飛び込んでくる文字が、「世界をリードするプロのファンドレイザー!」です。何か「他とは違う」感がいっぱいなのが、いつも私はちょっと気になります。ロンドンでの国内大会も、毎日ある全体集会みたいなので、IoFの会員が起立し、それ以外の人が拍手をする状況は、違和感を感じざるを得ませんでした。それと会員になったことで得られるたくさんのお店での割引。嬉しいけど、ありがたいけど、ファンドレイザーになったのはこの特典のためではないし、何かファンドレイザーという仕事がすごく特別なもののようで、私は人とのつながりを大事にしたいだけなんだけどなぁ・・・。そうやって悩んでいたら、「特典だから使ってよ」とメールが送られて来ました(笑)
さて、街のチャリティショップはどうでしょう。いくつか足を運んでみました。すると、お店の雰囲気も、店員さんも、お客さんも、本当にそれぞれでした。私が商品を見ていても、携帯をずっといじっている店員さんもいるし、団体の説明をしに来てくれる店員さんもいる。「今日は○○ポンド買ったわ。たくさん人のためになっているでしょ?」と言いながらお店を後にするお客さんもいる。
こんな現実に出会いながらふと、「支援者さんを一番に考える、Doner's Central」という考えに共感していた私は、分からなくなりました。いくら支援者さんの思いに寄り添おうとしても、いろんな思いを持った人がいるし、ファンドレイザーだっていろんな人がいて当然。冒頭の個人からの寄付のパーセンテージが多いのも、多くはお店に置かれた募金箱だったり、寄付した一人一人の情報がわかりにくいものが多いんだろうと、想像できました。そんな中で、「思いに寄り添う」ってどういうことだろう?って疑問が浮かんで来ました。
先日、街でこんな光景に遭遇しました。
街を歩いていたら、ホームレスの人が「小銭でいいのでください」と訴えていました。そこへドーナツを美味しそうに頬張りながら、若いカップルが通りかかったのです。次の瞬間、二人はかじりかけのドーナツを、それぞれがホームレスに投げたんです。ホームレスのおじさんは「2つもありがとう」と涙ぐみながら何度もお礼を返しています。思わず立ち尽くす私の横を通りかかった親子のお母さんが子どもに言いました。「ほら、思いやりってこういうことよ、覚えておきなさい」
あまりに衝撃的だったけれど、家に帰ってパートナーとこの話をしながら、カップルも、お母さんも、(方法は置いておいても)「誰かを思いやる」気持ちがあったんだろうと、子どももそういうことを小さい頃から経験できる環境にあるのはいいのかも?という話になりました。
寄付やチャリティを「思いを託す行為」と表現する人もいます。チャリティ先進国と言われるイギリス。確かにチャリティはすごく身近にあるけれど、付き合い方はもちろん人それぞれ。寄付する側も、受ける側もきっと。レスターに来てお世話になった宿の方は、口唇口蓋裂という先天性の異常を持った子どもたちを支援するため、来月水泳大会にチャレンジすると話してくれました。
これからイギリスで暮らす中で、今浮かんで来た疑問を心に留めながら、いろんな人に出会ってみたいなと思いました。目立たないところで奮闘しているファンドレイザーもどこかにいるかもしれないし・・お会いできるか難しそうだけど、会えたらいいなあ、そう思いながら1ヶ月目の記録とします。
最後はおまけ。先日行ったメルトン・モウブレイの美術館入り口にあった募金箱。コインをいろんなところから入れることができます。